ツイッター小説用にオフでメモってわすれてた小説

 月のない夜、手を赤くして(色は見えないけれど)、穴を掘る。公園のどこかで鳥が鳴く。だまされた、といって悔しがる君の顔が見たくて、そこに、もらった手紙を捨てた。君のことなんて、好きじゃないよ。他の人のことが好きな、君のことなんて。

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 スープをさじですくう。口元に運ぶ、指の動きさえ、息を詰めて見つめられている。
 苦しい。スープが喉を通るとき、彼が微笑む気配がした。私が嬉しそうに飲み干すからか。
 一連の食事の後で、雲みたいなふわふわのメレンゲを割り落とし、私は小さくため息をつく。
 この気持ち、あなたはきっと、理解しない。
 あなたは料理人だから、私が満ちると、行ってしまう。


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 日が暮れてからでないと、あの屋台はラーメンを売らない。半端にあいた時間を、映画はつまんない、という君のために、少しでも、普段行かないところですごそうと考えて、プラネタリウムに来たけれど。ポップコーンないの、と呟く声が、どこか優しく、耳をくすぐる。


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 通勤通学の電車の中で、朝っぱらから、唇を触れ合わせている。今時の小学生はやることが違う、とぼんやりと考える。目の端で見えている、といった程度なので、眼鏡のツルより外側は、思考と同様に雨の窓ガラスみたいに滲んでいて、二人が異性か同性なのかもはっきりしない。


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 早朝のゴミ出しのため、裏口の戸を開ける。かじかんだ手に、無意識に息を吐きかけていると、あの人が店の横道を通るのが見えた。名残の月の方角へと、去っていく。すれ違ったことさえ、きっとあの人は覚えていない。