この地はもう、お前を愛してなどいない。
それでも私はこの地に残る。
Bleibe(ブライベ)
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   Bleibe(ブライベ)   

27−4

4*バッドトリップ
   *
「告解を」
 彼女はその場に跪く。板床に落ちる、ステンドグラスを色とりどりに透かせた日差しが、徐々に濃い朱に染まっていった。
「私は、悪い夢を見ていたのです」
 さようなら。
 誓われたことを叶えることができなくても、貴方はやれるだけのことはやった。
 だから、決して嘆かなくて良い。
 出会えたことを誇りに思い、時からこぼれおちた貴方に幸いがあるように祈り続ける。

 ……悲しくない、わけではないけれども。

「それで?」
 壇上で、アルフォンス・ネオは微笑んだ。その金色の髪はゆるくうねり、ステンドグラス越しに最後の一光を浴びてまるで天使のように輝く。
 彼がどれだけ手を汚しても、誰かがそれ以上の苦痛を失う。その為には許される、その為に神はあるのだから。
 彼にとって。

「私はもう神父でも牧師でもないのだが」
「ファーザー、貴方の罪を神はお許しになるのか」
 立ち上がった彼女の太腿が外気にさらされる。長いスカートに隠されていたそこに、鈍く光る黒の短銃があった。
「ファーザー、もう終わりにしましょう」
「分かっていないようだね」
 笑んで、彼は両手を広げる。
「撃てるものなら撃てばいい。だが残念なことに、周囲の一千を越える軍勢がすぐさま君を殺すだろう」
「死などいかほどのものでしょう」
 芝居がかった仕草で長い黒髪を顔から払いのけ、彼女は半ば陶然と言う。
「巡る生命は、いつか貴方を再び幸福へと再興する。私も同じ」
「……だと良いのだが。私はそれでも、今できることにしか興味がなくてね」
 将来のために行動している割りに矛盾したことを言い、アルフォンスは引き金を引いた。
 彼女が長々と喋っている間に、この教会への思い入れも喪失感もすべて覆された。目に見える位置に居た彼を聖職者扱いしても、アルフォンスは既に何年も前にその職務を放棄している。いまさら、ここを血に染めても、何の痛みも感じない。
「レジスタンス……か」
 長い時間冷えた外気にさらそうとはせず銃を上着の内にあるホルスターに戻し、アルフォンスはため息をつく。
 メフメトは三十四神の兄弟神をあがめ、それらは各々の部族と連結している。ローズは文字通り抵抗者が元になる、彼らは帝国と覇権を争った砂上の国のオアシスを再興させようとしていた。ティファレトは生命を重視する、世界を作る構成要素を知り、知恵でもって全を制す、もっとも論理が通じる相手だ――尤も、彼らの生命観以外の部分ではという注釈がつく。
「ケーレトの女神か、」
 呟いて、アルフォンスは冷淡に吐き捨てた。
「……何故覇権争いを続けるのだろうな」
 自身のことなど棚に上げた発言に、遺体を回収しに来た数名の軍人らがひっそりと片眉を下げた。
 血糊を踏んで足音が立つ。
「片づけろ。――火を放て」
「よろしいのですか?」
 誰かが肉厚の声で言う。
 それに対しアルフォンスは眩暈を払うように頭を左右に軽く振った。
「感傷だ。無いほうが良い」

 アルフォンス・ネオの育った教会はその日、盛大な炎を巻き上げて燃えさかった。
 彼はひとときも同じ場所にとどまろうとはせず、次の目的地を南に定めた。
「商業都市とは手を組んでおく必要があるからね」
 その目が、後方の炎の光をはらんで揺れる。一瞬泣いているのかと思ったが、軍人たちはそれを見間違いだと断定した。
   *
「今日は皆やッけに威勢がいいよなぁああ」
 九条は一旦弾薬などを補給しに後方へ戻り、とって返す途中で数度、前線基地の軍人たちが攻防戦を繰り広げているのを目撃した。
「空軍っつっても前線基地には飛行部隊しかないしな、本物の空軍だと今は海上戦に忙しいし――普段といい今回といいあんまり飛行機は使わないよな。でもやっぱこれは上から空爆した方が早いんじゃないか」
 白兵戦でもあるまいに、弾薬の尽きた連中が手当たり次第刃物や農具を持って戦闘に参加している。一部では倉庫から食糧や女子供が攫われていく。暴動と変わらない情景に、よほど鬱憤が溜まっていたのだろうなと九条はやけに冷静に思った。
 まぁ、人が死ぬのには変わりない。
「後ろからも素敵なお客様がご登場だし。あぁ面倒くさいねー自分で選んだ仕事だけどねぇ」
 足下や尻から伝わる振動が背骨を伝い脳を揺らす。エンジンの調子は良好だ、ここで一戦交えても撃墜される恐れはない。
「でもなーこういうときは戦争だからな、俺の一存ではどうしようもないからな……てことでファイアス任せた」
『了解』
 声の底をざらつかせて九条に答えが返される。常に開きっぱなしになっている回線は、時折攻撃を受けたものの悲鳴や笑い声まで届けてくれた。九条自身も独り言というより仲間に話しかけるようなセリフを吐くことが多い。自身が同じ言葉を聞いてもそれに答えないだろう小さな愚痴や歓声には勿論誰も返事を返さなかった。まぁここではそういうものなのである。
 延々と続くような地平線をかすめ取る者々。それらを上空から眺め、九条は小さくため息をつく。
 地上スレスレから現れた小さな一人乗りの戦闘機が、一気に速度をあげて九条らより先へ走った。すぐ後ろについて行く空軍や民間の輸送護衛機を、息が止まるような一瞬の停止を経て灰鷹のように上空からファイアスが狙う。囮になった者が左に旋回し追撃者の爆発によって発生した乱気流を免れた。
 口笛を吹き、九条はやがて目を細める。
「日が沈むじゃないか……」
 森や市街地に逃げ込まれた場合、たったこれだけの規模の飛行部隊では空爆よりも軍人がじかに武器を持って地上を移動するのに相応しい。ましてや日が暮れれば、これまで九条らが行なってきたような敵味方の判別など容易にはつかなくなる。
 西日の深さに舌打ちし、九条は開かれた回線を聞く「誰か」に現状の確認を促した。
 返った答えは一つきり。
 無線放送を利用して、無謀な計画者が行動を開始したことを避難する言葉だけだった。
「遂におやりになられましたか……」
 揶揄する声にも覇気がない。誰しもが予想はしていたが、あまり手放しに歓迎する気にはなれなかった。
 あれで誰も後ろに付いていかなかったらとは考えないのだろうか。ランゼルだけではなくルノーらが一斉蜂起すれば起こりえなくもないのだ、あの男の存在の抹消などたやすい。追い落とすべき頭など、現時点ではたった一人なのだから。
 それでもそれが叶わなかったのは、誰も行なわなかった所為なのか、それとも単にアルフォンス自身の運なのか。
“フェリス同盟については現状維持の方向で……”
 ノイズ混じりの声の中に、総ての回帰する点が見える。
“旧帝国軍ではこの状況を否定的に見ており、今日にも前線基地を反乱軍と見なして総攻撃の構えを”
「おい、どういうことだよ」
 舌打ちし、九条は再び、誰か、と声を荒げた。
「誰か答えろ! 死んでるわけじゃないんだから!」
“……し、アルフォンス・ネオ=フィーリングズ前線基地所属大佐を軍法会議第七百六十三号案の被告とし、全軍にこれの捕獲を命ずるものとする考えです”
『九条、冷静になれ』
 上位回線を使うつもりだったのだろう、インカムを通じ、急にランゼルの声が機内に響いた。銃の反響音が、他の夾雑音など些末だと言わんばかりに大きく跳ねる。自身もまた戦闘中ではあるが、彼の声はどこまでも冷静だった。
 いっそ、すべてを見てきたように。
『上から見える間だけでいい、まだ砂漠にルノーや他の奴らが出たままだ、未だ補給路もないし補給機も行けやしないからな、お前が行って一つ退路を確保してこい。どうせ暇だろ』
 操縦桿を握っているだけなら暇だろうと言う大佐の素っ気なさに涙が出そうだ。その間にも、追尾システムのついた空軍の機体が銀色に光って煽ってくる。羨ましいことに機能も作りもこちらの数倍上だ。それを軽くかわし、できれば撃墜よりも乗っ取りがしたいなぁとのどかに考えつつ九条はいくらかの火薬を無駄遣いした。
「答えになってませんよ大佐」
 落ちた新鋭機は燃え方もまた格別に良い。派手に黒煙を吹き上げる下方の影に肩をすくめ、九条は再びファイアスらに命じる。
「ちょっと急用ができたみたいだ。俺は先に行くけど、敵機に少佐が乗ってるかも知れないから中身の確認にだけは気をつけろよ」
 九条が単独で移動しようとすることには文句は出なかったが、最後のセリフには疑問の声が飛ぶ。
 彼は笑って、機体を風に任せて高度をあげた。
「アレだろ、空が好きなら分かるだろうが。俺たちは地面じゃ死ねないんだよ」
 まったく、因果な商売だ。
   *
 迂闊だった。
 森を抜けた位置には数百人単位の街がある。
「くそっ誰かこっちへ!」
 二人並ぶのがやっとの道を抜けて、方々で略奪を尽くす者らに出くわした。
「少佐! 戻らねばッ」
 分かっている、これでは大佐らとの距離をあけすぎている。
「後退を!」
 佐倉は声をあげたが、身近な銃声に飲み込まれた。
 私掠の限りを尽くす連中の粗暴さに、軍人らも顔をしかめる。しかしここで弾を浪費するわけにもいかない。一刻も早く大佐らの行動に支障を来たさぬよう配慮して敵陣を廃す必要があった。
「子供が! 私の子供がッ」
 男女を問わず、老いも若きも似たような言葉を口走って誰彼ともなく寄り縋っていく。ある場所では数人がより固まって泣き叫んでいた。現在同行している者の中に医者はいないし居たとしても貸すだけの力も暇もない。いつ果てるとも知らない弾丸が宙を舞い人々の腹や背を抉った。
 砲弾の破片で建物の壁が大きく欠けた。佐倉は粉っぽい空気にむせかえったが、すぐに唾を飲んで照準を頭上の狙撃手に向けた。
「少佐っ」
「黙れ気付かれる」
 物陰に飛び込んで佐倉は首の折れた子供を抱えた女性と肩が触れてよろめいた。
 荷車からばらばらと衣服や品物が転がり落ちたが、荷車の引き手はすでに文句も言えない状態になっていた。
 荷台からしみだした血が音を立てて地面に流れる。子猫がミルクをなめ取るような軽さで、明らかに命の灯火が消えていった。
 どうします、とずっと付いてきていた一人が目で聞く。佐倉は逡巡し、ふと高度を下げる小型航空機を見つけた。
「少佐!?」
 駆けだした佐倉は角を曲がって一気に坂を下り始めた。
 すれ違いざまに数名の頭や脇腹を銃でなぎ払って駆け、その先にある草を刈った広場に辿り着く。
「少佐ぁ!」
 どこへ行くのかと問う声に答えるより、急いた気を鎮めることに気力を要した。既に無人となった機体に入り込もうとして味方に追いつかれ、肩を揺さぶられて不快げに眉をひそめる。
「少佐! 今ここで飛んでも使えませんよ!」
 分かっていることと、本当に腹の底からそうだと思えることとが違うことを、人はどうして認められないのだろう。
 ままならぬ手でさらに慣れない地上戦を生き延びるよりも、佐倉にはやりたいことが残されていた。
「どうせ死ぬなら死に場所は自分で決める、俺は出来れば空で死にたい」
 振り切られ、青年は呆然と座り込む、しかしすぐさま我に返り、佐倉を一瞬強く睨んだ。
「別行動を、取られる、ということですね、」
 違反者には重罰を。それが本来のあり方だ。しかしこの青年は未だ甘いところがある――異例がいつでも通じるとでも思っているのだろうか。
 佐倉は笑って、それでもそれに感謝する。
 おかげで望む形で戦えそうだ。
 決められた形を守れなければ全体が滅ぶ、それでも、佐倉は、ここにきて自身の感情を優先させた。上空からの空爆のためだけではなく。ただ、思いあまったようにそれを選んだ。
 乗っ取ったものは輸送機だと思っていた――が、後ろには大量の弾薬が積まれていた。
「ははっ、これだけあれば特攻も一回じゃあ済まないな、九条が喜ぶ」
 無線は入らなかったので音楽をかけ、すぐに切った。夕日の向こうにおそらくは多くの民が死んでいる。
 即座に追う身だとしても、必ず、空からの戦いで生き抜きたいと思った。
 まるで大地を逃れるように。
   *
 生き物に似た闇がある。息づいた闇は呼吸音を発し、それぞれの勘をわずかに鈍らせる。
 一際大きな暴発のあと、各々が舌打ちをこらえ、潜んだ闇から攻撃手の姿を探した。
 黄色からオレンジへと色を変える炎が闇を照らし、辺りをいっそう深く沈める。
 やがて辺りは静まりかえり、後には森と残骸、それに侵入者らがかすかに燻る音だけが残った。

「暗い」
 真顔で呟き、一人の軍人が倒れた黒こげの何かに煙草をさした。
「さすがに火ィはつけん。熱いのはもう沢山だろうしな」
「そこ、多分ただの木」
 冷たく言い放ち、もう一人が辺りを鋭く見回す。機敏な動きで燃え残る遺体の影に隠れ、彼女は構えた銃器が音を立てないよう息を潜めた。もとより小柄であるため潜みやすく、どろどろに汚れた今の状態では更に景色と同化し、意識しても殆どそれと分からない。
 あと数百メートルで、昼間に前線基地所属第二十五部隊が通過した付近に到達する。砂漠に面した前線が後退するようにして、第七部隊もまた砂漠の王都跡地から離れていた。じりじりと下がるものの、その長期化しそうな戦いの割には、さほど頭数を減らさないで済んでいる――少なくとも、先程まではそうだった。
「ルノー。来るぞ」
「来てるの間違いだろう。お前は腕がいい割には勘が鋭くない、それだけは改善すべき部分だな」
「狙撃手に向かって無茶を言うな、こっちの勘が悪ければお前もただじゃすまないぞ」
「それもそうだ」
 両手を挙げて、第七部隊大佐ルノー=モトベは「な?」と同意を求めるように小首を傾げて振り返った。
 後方から忍び寄っていた住民らがむしろ背を揺らし、警戒して足を止める。
「別に、今は手ぶらなんだがな俺は。そうだろ?」
 ついでのように着ているもののポケットをいちいちひっくり返し始めた男に、かき集めた銃器で応戦しようとした者たちが拍子抜けして手を下ろした。
「周りにはだーれも居ないんだなこれがまた、全員どこへ行ったんだろうな、ここら一帯の焦げたのは多分うちの連中だけじゃあないとは思うが」
 派手にロケットランチャーなど使うからこうなるのだ――と、奪った武器を無計画に使用した無知を嘲って、彼は掲げた両手を振った。
「それでキミタチ、俺は敵かね味方かね? 誰であれ侵入者は排除する構えかね? それとも言葉が分からない? それともはなっから理解しない? 違うよな、もし最後の選択肢を選ぶなら俺にこんなに喋らせるべきじゃなかった」
 墨に汚れた白布が、水浸しの地面に粘着質の音を立てて落ちる。その動きを目で追って、地上戦専用部隊の男は低くぼやいた。
「参ったな。俺ァ頭使う事ァは苦手なんだ。こんなに考えて罠張ったのは久々だぜ」
 殆どの敵は無傷に近い形で倒れ伏している。その胸元には針で突いたような穴が開いていることを、彼は仕掛けから知っていた。
「大佐、殆ど台本通りでした」
 ただ気楽に本を開いて閉じたような顔をして、死体と同化していた者が立ち上がって顔の泥を袖口でぬぐった。
 手には防水加工の布でくるんだ電子機器が握られている。
「それはそうだろう、ルノー大佐に相応しいほど短いセリフだったからな」
 吐き捨てた憂乃に振り返り、ルノーはさして否定せずにただ肩をすくめた。
「俺は武器を使うほうに賢いンだよ、ランゼルやセヴェックみたいにせこせこしちゃいねえんだ」
「それにしても大尉、よく黙っていられましたね」
「やかましい。私は元々そんなに饒舌じゃない。ランゼルじゃああるまいし」
 双方から嫌悪の対象として名をあげられたランゼルはもしかしたら「とにかく突っ込んで行けば済むルノーは統括者としてはそれなりに楽そうだなァ」と頭の片隅で思っているのかもしれない。しかしそれを口にすることはなく、第七部隊専属の情報局局員はいつも通り表情の読めない顔でモバイルを開いた。汚れに強いようにコーティングしてはあるが、一夜のうちに炎天下の砂漠に放られたり深夜の泥に沈んだりと酷使され、さすがに不穏な音を立てている。
 先程隠れた陰から出てきた『大尉』は、眉間どころか鼻の頭にしわをよせてうなり声をあげた。黙っていられたことを褒められたのがよほど心外な評価だったらしい、おかげでうっかりと不発だった罠を踏みつけた。
「おっと!」
 ルノーがすぐさま足をあげ、髭が覆い始めた顎をおおざっぱにかいて明後日のほうを向く。
「まぁ仕方ねえわな」
 ルノーに一息で担ぎ上げられ、憂乃はさらに憤りで顔を染めてルノーと局員の顔を睨んだ。
「まァ気にすんなや! 生きてるだけでありがてぇだろ」
 ぽんぽんと子供にするように憂乃の背を軽く叩き、ルノーは彼女を担いだままで歩き出した。
 足下には一時的な嵐で吹き消された火炎の残す灰と泥が死者を沈める。
 今ここで地面に降ろされてもそれらに足を取られて速度が落ちることは目に見えている。こういうときは素直に、身長と体力があるルノー=モトベが羨ましい。情報局員もまた難儀しながら、泥から足を引き抜いていた。
「……ありがとう」
 肩の上で、憂乃はうつむきがちに呟いた。
「あん? 気にすんなや、どうせお前にゃまだまだ働いて貰うからな」
 無遠慮にルノーが踏みつけた泥には、うつぶせになった味方が身じろぎせずに沈んでいる。
 憂乃は唇を噛んで、行方のしれぬ味方の軍人らが生き延びていることを祈った。
   *
 もうすぐ夜明けがやってくる。群青色の空には、既にビロウドのような漆黒の闇の気配は遠い。クリーム色の光が差し込む時間まで、あと幾分も無いだろう。
「うしゃああああああ!」
 爆撃機が上空を通過し、森に逃げ込みかけていた武装者たちを一掃した。
 空路を戻ってきた九条が、積み直したばかりの荷を豪快に消費していく。帰るつもりもないほどの乱用ぶりに、他機からも不安の声があがった。

「因果な商売だねまったく!」
 血が騒ぐ、ざわざわと全身の血が指先に足に巡り集中していく。
 佐倉らしき人物が輸送機を装った民間小型機を乗っ取ったとの情報が、すでに佐倉の地上での同行者からなされている。今頃彼もまた九条同様に、不謹慎なほど『わくわくしている』だろうことは容易に予想が付いた。
 迷惑そうな味方の声に、九条はもどかしそうに小さく詫びる。
 しかしこれは仕方ないのだ。戦闘機乗りの宿命のようなもので、彼らはなぜか夢中で機体を操ってしまう。あまり考えるということはしない、だから上からの指示がないと間違いなく弾薬を無駄にする。無論冷静さを失えばパイロットは使えない、だから引き際を見て「諦める」ことを叩き込んでおくようにする。また今度にも乗れるからと、自分自身の軽率さを戒めながらなだめて帰る。
 ときに暴走する激情と呼べるもの、それは若さの故にだけではない――九条はちゃんと知っている。
 本来は、万が一にも乗っ取りなどが発生しないために、一度空についた人員は使えなくなると軍自体から除名される。元の空には戻れない。
 だから、病や視力、体力低下のために職を奪われたパイロットたちが、暴動に参加してまでも飛行機にあこがれる気持ちが分からないでもない。
 それは恋に似た病、だから彼は佐倉を心配する。
 もはや戦闘機乗りとしては扱われない現状で、おそらく佐倉は飢えている。上手くやるための冷静さを失えば、――戻っていっても「戦争」のときには補佐しかできないと分かっているから、戻るための意識を捨てて、戻ってこないかもしれなかった。
 まったく因果な商売だ――命を捨ててまで賭けてもいい夢ではないというのに、その魂が死なないために、彼らは全身を犠牲にする。
「まァどうせ短い命だし」
 どのみち神経と体を酷使する仕事だ、戦死しなくともパイロットとしても生命は短い。
「『生きたい』気持ちも、分かるけど」
 それが飛行機乗りだから。
 九条は再び、頼まれたとおりの空路を辿る。

 一方の地上でも成果は確実にあがっていた。
 研究所内に駆け込んだ一宇とランゼル、それに後続の数名が赤札の下がった扉を蹴破ること三度、拍子抜けするほどあっさりと目的のシステムらしきものに遭遇できた。顔色を明るくする一宇の後ろ頭を小突き、大佐は彼だけを中に残す。外を覗き、自分用に持っていたモバイル画面と対応させて研究所の図を頭に入れる。トラップを仕掛けては来し方と出入り口の距離、ここの位置を確認し、他の者は再び散り散りになった。
 と、立てないほどの揺れが襲った。続いて来る足音。
 舌打ちし、ランゼルは一宇に対し早くしろと急かす。
「分かってますよ!」
 慣れてきたのか、一宇は振り返りもせず無心にデータを確認するだけだ。
「ここはA棟三階六号だそうです、俺の『目』だと奥の、地下一階第七タンク入口までしか行けません」
「偽造しろッ」
 言うはやすし行なうはかたし、一宇は瞬間、渋面を作り、すぐにその表情を落とした。モバイルを畳み、立ち上がって更に部屋の奥へ進む。
 薬品棚には茶や緑の瓶が並んでいる。陳列された劇物の名を数え上げるまでもなく、それらはすべて人体に害を与えると明白だった。
 再び揺れる。
 地上に殆ど出ていない建物だが、元はここも図の通り地上三階、防弾ガラスのはまった窓が奥の方に一枚あった。その向こうは赤茶色の土塊が埋めており外の景色は望むべくもない。
「ダメです、ここの回線だとやっぱり緩すぎる、重要なものは地下に隠してあるようです!」
 埃を吸い込んでむせながら、一宇は白茶けた明かりの下を走って部屋を出る。
 何十年も死んでいた割りには、それなりに整理されている印象を受けた。ここは戦争で失われた場所ではなく、手続きを踏んで閉鎖された研究所なのだと思い知らされた。
 つまり、データなど残っていないのかも知れない。
 無駄足の上に、マザーコンピュータMが過去の記録をまともに持って目覚めたならば、研究所データを人力で探すなど滑稽に過ぎる事ではないか。
 今更ながら考えて、一宇はふと我に返る。
「今アルフォンス大佐は何をしてるんだろう」
 先程から電波を通じてニュースを伝える放送が流れていたのだが、一宇はずっと研究所の支配権を与えるキーを探しておりそれを聞く余裕が全くなかった。
 一瞬大佐が顔をしかめ、もし俺たちが帰ったら英雄視されるくらいにはアーリーが偉くなってるンだろうさと嘯いた。
「しっかし何だァさっきから。どこぞのバカじゃああるまいしゲリラ戦かましてるンゃないだろうな、森で」
「……大佐、行きますよ」
 バカと言われたのが誰なのか大体予想が付いたので、一宇はなるべく話題を逸らした。
 ランゼルは頷き、側にいた味方の人員に指示を出す。
「階下に行く階段とエレベーターは十七、うちのと前線基地の他の連中が押さえてる。二階まで降りるのは右へ曲がれ、地下への道は見つかってないらしいが一階の左右の端にシャッターがあって行けないらしいからそっちが有力だ、」
「それで俺たちはどっちへ行けば良いんですか」
 一宇の言葉に、ランゼルが決して機嫌の良い意味でなく目を細めた。剣呑さに、問うた本人は息を飲む。
「ぐ、愚問でした……っ」
 左に曲がった一宇に、後ろで、駆け寄ってきた者に略式の地図を示しどこに何があるのかを詳しく埋めていきながら大佐が笑った。
「分かってればいいんだよ、それで努力すればいうことはない」
   *
「バカじゃねえか!?」
 ルノー=モトベが言うのも無理はない。地上でのゲリラ戦に威力を発揮する第七部隊は先程既に解体したが、それでも生き延びた者たちは当初の予定通り第二十五部隊のバックアップに努めている。それらが一斉に悲鳴をあげた。森がなぎ倒される、黒煙があがる、森にあるであろう病原をものともしない無計画さで数機の戦闘機が墜落した。
「おいどうなってンだよこりゃあよ」
「私に訊くな」
 浮田憂乃第七部隊大尉は構えたライフルに弾が入っていないことに舌打ちした。しかしそこで使えないからといって手持ちの武器を放り投げず、辺りの者からくすねられないかと銃器や弾の有無を目で確認する。
「しかしやべえな、これだけ無茶苦茶だと、ランゼルはともかくとしてもアレについて行かされてるあの餓鬼は、さすがに悪運がやべえンじゃねえか」
 ルノーが何の気無しに軽口を叩くと、憂乃が鋭角的な動きで振り返った。一瞬泣くのかと思えるほどに、まなじりを決してルノーを睨む。てっきりこの発言は黙って切り捨てられると思っていたので、上司はその反応にいささかたじろぎを見せた。
「……すまん、言い過ぎた」
 ルノーはばつが悪そうに頭をかいて詫びを言う。
 無言で訴えるように見上げてきた憂乃は、返答せず、息を吐いて再び茂みに目を向けた。
「……何だよあいつ?」
 ルノーに悪気があったわけではない。彼は首を傾げながらもすぐにそれを吹っ切る。別に気にしていなくても、現状に支障は来たさない。
 ――ふと、彼らは気配の充満を感じる。
 憂乃が振り返ると、ルノー大佐のすぐ近くに立ったシーン情報局局員が唇に人差し指を当てている。しかし警戒すべきものではないだろうと言おうとして、憂乃は他に先んじられた。
「あー俺だ俺だ味方だ一応」
「うわぁびっくりしたッ」
 ルノーが木陰に向かって両手を挙げ、そこに居た者に笑いかけた。
「ご苦労さん、ランゼルが居るのはこの辺か、もしや?」
「何だァ、ルノー大佐だ」
「邪魔だからどっか行ってて下さいよ」
 ばらばらと追い払うようにやる気無く手を振られ、ルノーは何だ、とむっとする。
「折角来てやったのによー」
「たまたまこいつらが後退方向に居ただけだろうルノー大佐殿」
 上や木陰に第二十五部隊などが潜んでいるところを見ると、草むらの死者は既に武器類を所持していない。浮田憂乃はつまらなさそうにライフルを肩にかけて鼻を鳴らした。
 ルノーは、部下としか言えないような階下の者の乱暴な言葉に気を悪くした様子も無い。ただ枝の上を見上げ、軽く片手を差し出した。
「大尉、つれないこと言っとらんでこいつらに弾ァ分けてもらっとけ」
「えー俺たちももう殆ど持ってないッスよ! あげられません」
 木上に居た者が、寝そべるかたちで遠方に向けていた銃を高く持ち上げた。ひとえに、ルノーに取りあげられないようにするためである。
「まァいいじゃねえか」
「良かないですよー」
 毛を逆立てた猫のように、青年が枝の上を後ずさる。
「ったくそういうとこばっかりうちの大佐に似てるンだからもー」
「あァ!? 何でここでランゼルが出てくるンだこら!」
「……大佐、ここで喧嘩しないでください」
 初期から同行している情報局局員が恬淡と釘をさす。
「あンだとこら」
「味方相手にすごむな」
 憂乃は吐き捨て、木陰の者に手を差し出す。
「寄こせ。お前、ライフルを持ってないだろう、それならその弾はいらない筈だ」
 めざとい女に、彼の者は小さく息を吐き出す。彼女がやっていることはまるきり上司と同じだが、その戦法には有無を言わさぬものがあった。観念したように首を振り、彼は憂乃の手のひらにライフル用の実弾をばらまく。
「頼みますよ、ホントに。俺たち、今回ここから動けないンですから。敵が来なきゃ無駄づかいしなくて済むけど来ないなら来ないで弾の一つも手に入りゃしないんスよ」
「動けない?」
 青年の口が最初の母音の形に開いた。生憎言葉にならないが、紛れもなく「しまった」と、その表情が雄弁に語っている。
 憂乃は簡略に理解した。
「つまりランゼルらはこの付近か」
「まァ詳しいことは言えませんけど」
「あ、そうだ。そろそろ人間弾薬庫が戻ってきますから、それから貰えばいいッスよ」
「そうだそうだ、俺たちもあの人から貰う予定ですしっ」
 助け船と言わんばかりに他の者が加勢した。憂乃は自然と眉をひそめる。
「バードが? あいつまだ生きていたのか」
「生憎頭は回るンですよねェあの人、……痛ッ」
「うるせえな餓鬼がよ」
 茂みに隠れていた者が、前のめりに転んだ。今しがた軽口を叩いたばかりの頭には、重たい音を立てて金属製のケースが置かれる。
「たかれ! 皆の衆ー恵みの雨だぞー」
 何故かルノーが周囲に指示を出している。ケースの持ち手から手を離した少年が、不満そうに口を歪めた。
「ンだよ、そんなに数ァねえぞ」
「お前そういう固いことは言いなさんなや」
 かくいうルノーも、拝むようにして両手をあわせ、少年がポケットから出して放った小型のケースに礼を言う。
「つーかてめぇ礼を言う相手が違うだろ」
「いやぁありがてえ弾丸様! 未使用新品なんざ久々に見るぜ」
「聞いてねえし。まァ良いや、そいつは硬化物質としても上等だかんな、使うときゃ気をつけろよ、一人だけ殺るつもりなンだったら他の使いな」
「何でだ」
「そいつはここを、こう、貫通して、連続した板およそ十枚分は軽くつらぬいてから外部の摩擦熱で内側零コンマイチの火薬層みたいなモンに着火して爆発する」
 通称人間弾薬庫は自身の胸元に指をそろえた手を直角に当て、それから後ろに回して飛んでいくさまを示した。
「……要するに一発で相当効果が出るってワケか」
 自分に一番分かりやすく噛み砕き、ルノー大佐は頷いた。
「俺にはむかねえな、そらよ」
「私に渡すな」
 ろくに位置を確かめもせず憂乃に放られたであろう弾丸入りの小型ケースは、あと一歩のところで他の者の手に落ちる。
「あッずるいぞ、返せ」
「別に取りゃあしませンて、もーがつがつしちゃって」
 草むらの誰かが苦笑しながら、少しだけ腰を上げてケースを放る。今度こそ受け取って、憂乃は中を確かめた。
「ライフルでも使えるか、」
「ま、やる気次第腕次第ッてとこ」
 闇の中でもゴーグル越しに世界を見ている少年は、相手には見えまいと思ったのか憂乃の嫌がることをしてやる。
 片目をつぶられ、憂乃は真顔で口を開いた。
「相変わらず小さいな」
「同じ身長のヤツにゃあ言われたくねえな」
「違う、身長じゃない。器だ」
「かっわいくねー」
 密かにルノーがケツの穴とか言われなくて良かったなと呟いたがごく自然に黙殺された。
「三十過ぎて可愛いよりマシだ」
 憂乃は少年にしか見えない通称人間弾薬庫を睨み付ける。彼はあらっぽくゴーグルごと頭をかき、ジャケットの下から長い導火線のようなものを引き出した。
「お前四捨五入したら幾つだよ」
「生憎私はそこまで老けてない!」
 言い争う間にも、憂乃は弾丸をライフルに詰め、通称人間弾薬庫は線を適当に切って繋いでいく。
 彼にジェスチャーで呼ばれ、軍人の一人が小走りに近づいた。
「これ、持って向こう側へ行け」
 満面の笑みでこちらを向かれ、その軍人は、顔がこわばる。
「で、ででででで、でもこれは」
「そう。俺の大作。すげえぞー直径何ミリ玉だと思う!?」
 目が輝いているが、軍人はそれ以上の追求を避けた。
 全速力で繋がる配線の続く限り駆けていく。
「よーしとまれーッ」
 下に台車がついてはいるが、その金属はかなり重たそうだった。筒型のそれを、天の焼けて開けたところに置いておき、途中から手を貸してくれた者たちとともにその軍人が駆け戻る。
「全員、歯ァ食いしばれよー」
 一応といったように大ざっぱに確認を取り、少年は軽くゴーグルをあげた。
「じゃ、行きますか」
「バーディ、お前、それは何だ?」
 ようやくながら憂乃が問うた。ルノーが両耳を塞いでしゃがみ込んだところを見ると、やはり人間弾薬庫の名に恥じず、爆発物であることは確からしい。
 悪企みをする子供のように、口も目も流線型にねじ曲げて、バードはそのまま、導火線に向かって火を落とした。
「俺様の本業をお忘れかい?」

 目もくらむような音、光、その雨。
「……バカだ」
 勝利の文字を浮かべた花火を打ち上げ、憂乃の評価をさして気にせずバードが告げる。
「余興さー。今の文字は俺のオプションな、腕によりをかけて目立つ配色にしておいた」
「……赤も黄色も白もあったな」
「青はちょーっと目立たねえ気がしてよ、どうせ下ァ森だし。緑とかあるだろ。ま、どうせあんま高くうちあがらねえけど、それでも見えるヤツには宣伝にならァ」
 それを合図に、茂みを鳴らして誰かがこちらへ駆けてきた。
「はいはいどいてください!」
 足音を殺さない点といいおよそ軍人らしいとは言えなかったが、その男は前線基地の軍人が着るジャケットを羽織っていた。
 一斉に狙いを定めた無数の目と銃口が、初めと違ってばらばらに、ひどく遅い速度で降ろされていく。
 彼は左腕の腕章を指さしながら、自身の身分を証明していた。
 見覚えのある顔と格好に、憂乃がライフルを下に降ろした。
「……なんで第十二部隊が」
 後方で士気高揚と外部への宣伝のために活動しているはずの、いわば記者が、ここに居る。
 誰かが疑問の声を口にするよりも早く、彼は号外ですと声を張り上げた。
「もしここにー、えー、レジスタンス、パルチザン、ゲリラ、テロリストその他非政府的な組織並びに個人の方々がいらっしゃいましたらよく聞いておいてください!」
 運命は告げられた。
「本日付けをもって旧帝国軍前線基地所属アルフォンス・ネオ=フィーリングズ大佐がその任を解かれ、反逆者として正式に認められました! が! 上層部と下層一部を除き、軍部は大半が離職を宣言、並びにアルフォンス・ネオ=フィーリングズの設立する新規機構に所属しその法に準ずるとの構えです! また非政府組織でも多くがこの新政府設立を容認しています! 今から名をあげます部族などにおいては確認を取られることをお勧めいたします! でなければ、ご自分たちの手を組まれるべき相手を射殺しかねませんからね」
 嗄れそうになる声で言うと、彼は一旦礼を取る。それから、ビラを配り始めた。
「……どういうことだこりゃあ」
 呆然とビラを受け取ったルノーから、憂乃がはじかれたようにビラを奪った。
「良かったな大佐殿、我々の上であるザイク現前線基地准将、元人事院主催もアルフォンス・ネオについてる」
 もしも不満があるならば、軍人らは上下関係を解消して旧帝国軍として新政府軍と戦えばすむことである。
 参ったなと呟いて、ルノーは暗い空を見つめた。
「俺ァこういう駆け引きは苦手なんだが。どう思う?」
「……結果的には勝ち馬には乗れたのではないかと」
 第七部隊専属の情報局局員はこの情景を観察しながらそう答えた。愕然とする者、予想が付いていたのかさほど動じない者など反応は様々である。
「なおこの情報は間違いではありません。我が軍の志気を高めるための宣伝とも考えられますが、今回、前日からかなりの回数に渡って、この手の憶測と断定が飛び交っていましたから」
「ふん、ロクでもねぇなァ」

 いくつかの異なる衣装の者らが、武器を投げて投降してきた。
 もしアルフォンス・ネオにつくのならばこの作戦においても彼の指示に従うほうが理にかなう。上で勝手に成された盟約とはいえ――そして真偽が定かではないとはいえ、これ以上恨みに任せて血を流すことには見切りをつけた者らしい。血に飽きたともいうことができた。
「皆なかなか素直だな」
 憂乃が皮肉ると、第十二部隊の者が汚れた腕章を指で示した。
「とか言ってると、これを落っことしてった俺の上官みたいに内部テロに遭うンですよ。気を付けてください」
「言われなくても」

 誰が正しいのでもない、投降せず武器をとるものたちのために憂乃は再びライフルを構える。
「味方は全員指示に従え! 部隊を解かれた者についてはルノーの指示に従って動け!」
「良い声だ」
 ルノーは短く喉を鳴らす。
「別に貴様を褒めたんじゃない」
 憮然とする憂乃ににやりと笑い、ルノーは情報局員の肩を掴んだ。
「シーン情報局局員、次はあるか?」
「何のですか、」
「決まってる」
 ルノーは突撃してくる無頼者を、その勢いを利用してひっくり返し片頬を歪める。
「お土産だ」
 バードといい第十二部隊隊員の出現といい、あまりに急な出現だ。まだどこからか“お土産”がくるのではないかと怪しんだルノーに、シーンはただ、短く告げた。
「上空を飛行中の民間機が、今にも墜落しそうです。土産と呼べるようなものは、あとはそのぐらいですね」
「早く言え!」

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